きおくのきろく

フィクションとノンフィクションを混ぜて書いています

麦と日曜日

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半年ぶりに美容室へ行った夜に、友人のOさんと自由が丘へ行った。

日曜日の夜だというのに、道端には人がたくさんいて、昼間の酷暑は引くことなく、ぼんやりとした熱が街中を包んでいた。七夕の過ぎたあたり、随分と星の粒が映える夜だった。

 

軽くなった髪の毛は熱を帯びて、ぬるい夜風にゆったりと揺れた。私が被っていた、横田基地祭りで購入した米軍使用のブルージーンズ製のキャップは湿気を溜め込んだ。

 

薬膳鍋の珍しいキノコをたくさん食べて気持ちを良くした私は、この後別の店で甘い物でも食べないかとOさんを誘った。彼女は快く誘いに乗ってくれた。

 

以前書いたかもしれないが、Oさんとは中学の同級生で、最近になって約10年ぶりに再会した人だ。

 

Oさんは私と違い、すごく気立ての良い人で、流行のものが好きなのだけれど、嫌な感じが全然しない。

 

それはきっと、流行のものを好きだという事に一点の懐疑心もないからだ。

気がつけば皆が好きなものを、何の疑いもなく好きだし、可愛いと思える実直さというものを私は何処かで失っていた。

 

私も流行に実直に生きていたら、どれだけ楽しい日々を送っていただろうか、そんな事を考えてしまう時がある。だけれど、それはある意味選択肢の少なさを意味している。

 

音楽、文学、ファッション、化粧、食事、すべてのカルチャーにおいて、必ずサブカルチャーが存在するこの時代は、個人に何億通りの選択肢が用意されている。

 

比較対象となるものを好めばどうしてもメインカルチャーに懐疑的な目を向けるし、流行を疑う。あんなもの、何が良いの?そんな事を言ってしまう。

 

Oさんは麦酒を好まないし、珈琲も煙草も好まない。

 

飴細工のように色鮮やかな果物と、たっぷりの生クリームの乗ったパンケーキが好きだし、アリアナ・グランデやテイラー・スウィフトが好きだ。パールカラーのネイル、ファジーネーブル、ショッキングピンクのスエードミュール、アボカド、カプチーノ、スムージー・ボンボン、鮮やかなマスタードイエローのオフショルニット…彼女が好きなものを挙げたらキリがないけれど、Oさんが好むのはそういうものだ。

 

「可愛いよね、だから好き」

 

私が気付かされるのは、たった、それだけで良いのだという事だ。流行だから、好きではなく、可愛いから好きというのはすごく真っ直ぐに思えた。選択肢が無いことは決して惨めではない。知る必要がないのだ。

 

https://youtu.be/m1_1nTjt6BI

 

私はOさんと別れた後、帰りの電車内で真心ブラザーズのENDLESS SUMMER NUDEを聴きながらしばし眠った。

 

パンケーキと一緒に私が注文した麦酒で、私は漠然と酔っていた。小麦料理と小麦製の飲物を組み合わせるとは、私にしては珍しく一貫性があるな、などと考えるうちに目が覚めた。

 

暇なので鞄の中身を漁ると、中に以前母親から譲り受けた沢木耕太郎のバーボン・ストリートが入っていた。ああ、ハイボールが飲みたいなあと私は欠伸をした。

 

明日から再び月曜日が始まるというのに、私はいつも、いつまでも緊張感の欠片もない。