きおくのきろく

フィクションとノンフィクションを混ぜて書いています

シャボテン、ホワイトアスパラ、ブイヨンスゥプ

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最近注目されているソルソファームという農園が実は私の家の近所にあり、バスを使って片道20分ほどだったので、先日10年ぶりに再会したOさんと行くことになった。

 

最初は二子玉川で、いわゆるプリミティヴなフレンチのランチを食べた。彼女は付け合せにパンと野菜スゥプ、オレンジジュースを選んだ。

私といえば何の醜聞も考えず、ライスの大盛りと、ブイヨン・スゥプ、麦酒を注文してしまった。

 

サーモンマリネやパテ、ボイルエッグで美しく飾られた鮮やかなサラダプレート、ポークステーキ、ラムチョップ、鮮やかな赤身を残したローストビーフ、蒸したホワイトミート、口当たりの良いチキンクリスプ等のミート・ワンプレート。これでひと皿1000円なのだから悪くは無い。

 

「麦酒が好きなの?羨ましい」

「好き、というか…飲みたいなあって思っちゃうんだよね」

「すごいなあ、私、いつかビア・ガーデンに行ってみたいから、私も麦酒を飲めるようになりたいな」

 

じゃあ、今度一緒に行こうか?その一言を言うか迷った時に、料理が運ばれてきてしまった。私は言葉を飲み込んで付け合せのポテトを咀嚼した。

 

私はOさんと2人きりで話すのは初めてで、何処まで話を踏み込んで良いのか見当を付けていなかった。

 

バスを降りて農園についてからも様々な話をした。Oさんもそれなりにどうしたら良いのかと考えていたのだろう。

 

農園には様々な植物があった。巨大で鋭利な棘を持つシャボテン、不思議な形容をしたでっぷりとした多肉植物、ブルーベリー、檸檬やオリーヴの苗木、南国のシダ植物、極彩色の美しい花たち。この敷地内の植物はすべて購入することが出来、園内には園芸好きの若者や昔でいうヒッピーのような服装の子供連れなどで賑わっていた。

 

植物に触れたり農園を散策するうち、高台にカラフルなペンキを施されたベンチがあったので、座って2人で話をした。Oさんは就職活動をしていて、やはり、それなりの悩みを抱えていた。

 

「仕事しながら貯金って出来てる?」

「うーん、正直難しいかなって思う。生活するので今は精一杯かも」

「そっかあ、ほら、私のやりたい仕事ってさ、手取りがあまり高くないから。みんなどうやってやり繰りしてるのか気になっちゃって。真面目な話をしてごめんね」

 

Oさんと温かい土と豊かな緑に囲まれて語らううち、午後の日差しは和らぎぬるく気だるい風が吹いた。

私はこんな時間が、決して嫌いではないと思った。むしろ、好きだと感じた。

 

Oさんは、これからもいつでも遊ぼうよ、と言ってくれた。私はとても嬉しかった。

 

「こういうの興味無いかなって思ったんだけど、気に入ってもらえてよかった」

「ううん、誘ってくれて本当にありがとう。お洒落な植物があって、とても楽しかったよ」

 

感謝の言葉とは、時に驚く程に温かい。こんな風に温かい気持ちで、毎日を過ごせたらどれだけ幸せだろうかと、背中に隣り合わせている悲しみがひんやりと私の背中をなぞった気がした。